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            メール・マガジン

       「FNサービス 問題解決おたすけマン」

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      ★第021号      99−11−12★

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          リエンジニアリング

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●久しぶりに懐かしい響き

を耳にしましたよ、さきごろ。 それは「リエンジ」! 

 

JCO職員が、あの臨界事故についてインタビューに答えていわく、

「きびしい経営環境下、<リエンジ>の中で起きた、と思います。」

 

おいおい、本気かね? ハマー、チャンピー両先生に聞かせたら、きっと

気を悪くなさいますよ。 仕事の質を落とす技法かと思われてしまいます

からね。 それは、とんでもない濡れ衣です。

 

 

リエンジニアリング、 Reengineering 、正しくは「ビジネス・プロセス・

リエンジニアリング:BPR」、意訳して「業務の根本的革新」。 それ

を解説した開発者マイケル・ハマー、ジェームス・チャンピーの共著、

" Reengineering the Corporation " は1993年の出版で、その訳本

「リエンジニアリング革命」は日本経済新聞社から同年11月に出ました。

  (この一文の中で言う<本>とはこの本のこと、とご了解願います)

 

 

新聞や雑誌にはそれより早く、93年夏ごろ記事が出始めております。 即ち

「アメリカ企業を復活させた経営革新の技法」。 以後翌94年にかけ、日本

企業が競争力を取り戻すため、間接部門の硬直性を除き、情報機器を積極的に

活用して業務の効率を高めなくてはならない。それには、、、 という趣旨の

取り上げ方でした。 (当時は何とか<追いついた>つもり、でしたからね。)

 

*   *

 

が、現実の反応はサッパリ。 研修講師を務めた先での、受講者たる管理職の

皆さんとの会話にも、「御社ではリエンジニアリングは、、?」を含めたもの

でしたが、どこでも答えが無く、内心、首を傾げざるを得ませんでした。

 

そう言えば、TVのルポものなんかほとんど無かったし、関連書籍の出版も

少なかった。 やがて雑誌記事に現われることもなくなり、具体的な事例を

誰かから直接に聞き出すことも無いまま、いつか立ち消えてしまった、、、

 

大切なことなのに、(また、私好みのダイナミックな方法論なのに)何故か

人気が無いんだな、、と不思議に感じました。 アチラものが何でもコチラ

ではやるわけではない、ということは分かっているけれど、、、 

 

*   *   *

 

JCO発言を「お懐かしや!」と感じたのは、多分そのせいもあったでしょう。

「おお、やっていた人もいたのだ!」。  しかしながらその中身はあのお粗末。

 

そこから考え始め、やがて気づく。 「リエンジ」は「リエンジニアリング」

じゃないぜ!、、  私自身、そんなイヤらしい省略形は用いませんよ。

 

しかし、思い出させて頂けたのもご縁。この際、技法にからめてオサライする

のも宜しかろうか、と。 もちろん今となっては「古い」が、何にでもヒント

を見いだすのが問題解決スピリット。 「温故知新」と申しますからね。

 

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●本の「あとがき」で、

 

監訳者野中郁次郎教授は、「リエンジニアリングこそ、10年近くにわたる

リストラクチャリングによる改革の試みを経て、ついにアメリカ企業がたどり

ついた競争優位回復の手段」としておられる。

 

今もってリストラの嵐がやまない我が産業界、もちろんアチラとは異なる諸々

のシガラミがあって、あまりテキパキ行なえなかったのはやむを得ませんな。

ドラスチックなアメリカの精神構造をもってしても「10年近く」かかったと

いうのですから、、、 しかし、もし

 

その順序でことが運ぶとするなら、ソロソロこちらもリエンジニアリングを

再考すべき段階に達したと言えるのではないか、、、 とも空想が走ります。

 

だいたいコチラは、アチラに比べて情報化投資が遅れただけでなく、組織上部

に情報システムをよく駆使し得ない世代が居座っており、どいてくれなかった。

しかし5年後の今、その障害はかなり除去されたのではあるまいか。 つまり

どうやら、コチラもその段階に「たどりついた」、とは見られないか? と。

 

それに「競争優位回復」は、今や<コチラの>大課題なのです。 何であれ、

「手段」は色々あった方が良いに決まっています。

 

 

次に、「日本の産業や企業の強さは、第一に<系列>という企業関係」なので、

それに「対応して提案されたのは、ライバル同士が一時的に手を組む<仮想

企業体>(バーチャル・コーポレーション)という組織モデルである」とされ

ております。 が、

 

その辺も様変わりしましたね。 最近の銀行合併や損保統合が大きな証明です。

「ライバル同士が」(「一時的に」ではないけれども)「手を組む」ことになり

ました。(ハイテクの世界では、そんなこと、すでに常識になっていますが。)

当然<系列>の崩壊も招くだろう、いわば発想展開時代の到来です。

 

それも virtual で。 この語は本来「事実上の、実質上の」という意味なのに、

この頃は「仮想の、虚像の」という正反対の意味にも使われるからヤヤコシイ。

言葉は生き物、だろうけれど化石世代としてはアタマが混乱します。 しかし、

 

コチラのバーチャル・コーポレーションも、ライバル同士の結合。 そこから

新しい何かを生み出そうとなれば、「日本企業のプラクティスの単なる模倣に

とどまるものではない」リエンジニアリングからもヒントが得られるのでは?

 

*   *

 

つまり言いたいのは、<’93、4年当時とは状況が著しく違って来ている今、

改めて、(「リエンジ」ではない)リエンジニアリングという技法の役立ちを

研究しても良いのではないか>です。 まず提唱者の言葉を確かめ、出来れば

そこに日本的プラス・アルファも載せ、閉塞打開の道を見いだそう、と。

 

*   *   *

 

お断わりするまでもないでしょうが、基本的にリエンジニアリングは HOW に

関わる技法です。 もう WHAT の時代なのに、逆行では?、、 良い質問。

 

その WHAT はきわめて高次元。 ここではトップにお任せする、としておき

ましょう。 しかし、 WHAT が定められた後、その実現を委ねられた管理職が

<何を>「リエンジニアリング」するか、も <WHAT> ではあるのです。

 

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●ハマー・チャンピーの本 p.16 に、

 

「最も印象的な企業−−小さな改善や成功以上のことを狙っていた企業−−は、

他の組織がするのとは異なる質問を自らに投げかけていることを発見した。、、

<どうしたら、、速く、、>とか、<どうしたら、、うまく、、>、、ではなく、

<そもそもなぜそれを行なうのだろうか>と尋ねていた、、。」とあります。

つまり、やり方 HOW から、やっているのは何なんだ WHAT へ移り始めたわけ。

 

<なぜ>とは即ち< for WHAT >でしょう。  それを各社に投げかけた結果、

「多くの仕事はただ単に、企業組織の内部需要を満たすためになされていた」、

「顧客のニーズへの対応、、、すぐれたサービスを提供することとはまったく

関係ないものであることに気づいた」のです。

 

要するに、多くの業務は企業側の都合のみに基づいて行なわれていた、という

ことなのですが、何も「リエンジニアリング」ではなくとも、それを説明する

古い寓話があります。

 

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●「子ヤギの足跡」というのですが、

私がそれを知ったのは昭和30年代、生産性向上教育用のスライドで、でした。

 

森の中で子ヤギが遊ぶ。 気ままなもので、アチコチ文字通り道草を食う。 それが

ケモノ道となり、人間もそこを歩くので、だんだん広がる。 馬車も、そして次に

は自動車も通るようになった。 そのまっすぐでない道の脇に家や店が建つ。 町が

出来上がる。 そしてある日、誰かが不思議がるんですね。 「どうして、この道は

こんなに曲がりくねっているのだろう?」

 

その後これは、サム・ウォルター・フォスなる前世紀の人の作を下敷きにした話

らしいことも知りました。(そこでは山羊でなく牛ですが。) 「人々の群が、今

もなお、300年もの昔に死んだあの子牛に導かれて、、損を繰り返す。 確固

たる前例なるものは、こんなにまでも尊ばれるものだ。」と結ばれています。

 

前例にこだわりたがるのは、お役所ばかりではない。 人間としてはよくある

心理、何しろ考えなくて済みます。 疲れることは誰もしたがらないものです。

 

 

<そもそも何故?>と考え、従来方式からの脱却を図り、生産性を高める、、で

高度成長が達成された部分はたしかにありました。 だからリエンジなんて昔から

やってきたことだ、日本が本家、、アメリカで評判になったからといって今更、、、

というのが、我が国では人気が出なかった理由かも知れませんね。 しかし、

 

その躍進めざましい日本企業の仕事ぶりを、彼らは謙虚に受け止めました。

 

*   *

 

「非柔軟性、反応の遅さ、顧客を無視していること、結果よりもむしろ活動に

とらわれていること、官僚制、イノベーションの不足、高い間接費。」(本、p.53)

 

どこの話? 日本のこと? と思えてしまうこの記述は、当時のアメリカ企業に

ついてなのです。 どれもそのまま、こんどはこちらが謙虚に受け止める番かも。

 

その状態から脱却するのに彼らが成功したのは、<顧客満足>に焦点を合わせた

こと。 <そもそもこの業務は、顧客の満足につながっているのか?>で見直し、

ビジネス・プロセスを抜本的にデザインし直したところにありました。

 

*   *   *

 

<CS>が叫ばれるようになって久しいが、苦情処理の窓口を新設あるいは充実

するくらいで、業務のプロセスから改めた企業は少なかったのではあるまいか。

まして子ヤギの話の当時、未だ消費者原理を取り入れる風潮は兆していなかった。

 

「リエンジニアリング」ならぬ「リエンジ」においては、<顧客>や<消費者>

の視点がやや、あるいは特に、欠けていたのではないかと懸念します。 JCOの

場合、それに加えて<社会><公共>も必要だったはずですが、、、。

 

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●ケプナーとトレゴーの

Rational Process を用いますと、「決定分析」の中の「目標」を明らかにする

段階で、その辺の誤りを防ぐことが出来ます。(「新・管理者の判断力」ご参照)

 

アメリカ経営学における「意思決定」とは、基本的に choice 、即ち<複数ある

案の中からの選択>なのです。 従って選択に誤りなきを期するには、案の良し

悪しを評価するための「基準」が必要。「目標」は、その決定によってどんな成果

や効果を得るか、を記述したものなので、逆に<選択基準>として使えるわけです。

 

 

「目標」は大別2種類。 MUST (必須、必達項目)と WANT (願望、欲求項目)、

どちらも技法(KT、EM)用語になっていますが、辞書的な名詞でもある。

   It's a must, you know! 、それは譲れないぜ! とかね。

 

MUST は「測定できるものでなくてはならない、、」、なぜなら「失敗しそうな

案をチェックする役割を負っているから、、」です。  いわば、数値的な条件。

 

WANT は、数値的には言えないが<なるべく>、<出来るだけ>よく達成したい、

つまり願望的条件です。 どの案に決まるかは先の話、どれにおいても、また、

たとえ案というほどのものが未だ無かったとしても、<それ>の実施に関わる、

あるいはその実施の影響を被る、あらゆる立場の人々から訊き出します。

 

*   *

 

たとえばJCOが採った作業方法。 あんなことする前に、<東海事業所転換棟、

ウラン再転換加工、溶解工程効率改善方法の決定>のような課題を掲げ、「決定

分析」にかけてみたら良かったのではあるまいか。 そうすると、

 

      (専門家ではないので、不十分はご容赦あれ)

 

MUST は、 ・既存の認可条件を満たす、 または ・新規の認可が得られる、

      ・間違っても臨界状態を生じない

      ・転換費用X億円以内

      ・操業停止期間Yカ月以内    など。

   ほかにもあるでしょうが、これらはどうしても譲れないところでしょう。

 

WANT は、 ・工程が短縮できる     ・作業人員が少なくて済む

      ・在来設備が生かせる    ・再加工品質が向上する

      ・ランニングコストが少なくて済む

      ・作業員が習得しやすい   ・機密が維持しやすい

      ・作業者の独自判断が加えられる危険が少ない

      ・蓄積されたノウハウが生かしやすい  (以上、JCO自体)

      ・認可条件の定期検査が実施しやすい   (監督機関として)

      ・供給が安定させやすい   ・発注量の増減にあわせやすい

                          (業務委託者として)

      ・自然災害の影響を受けにくい

      ・作業者の人間的誤りが生じにくい

      ・不測の作業中断発生にも耐えやすい   (以上、村として)

 (製品がきわめて特殊なので、通念的CS項目が思い浮かべにくい。ご勘弁)

 

*   *   *

 

それぞれの道の専門家が集まってブレーン・ストーミングでも行なえば、もっと

大切な項目が、もっとたくさん出るでしょう。 それらを適切に整理しますと、

それがそのまま、<方法>の善し悪しを判別する「基準」になるのです。

 

判別はまず、 MUST に適合しない案の除外から。 報道されたJCO方式は、

たちまちアウト。 いくつ出されても、簡単にふるい分けることが出来ます。

 

MUST を満たした案は、次に WANT をどれほどよく満たすか、で評価するのです

が、JCO方式は(たとえ MUST に目をつぶったとしても)何項目かで致命的に

得点が低いので、ほかの方法に競り勝つとは思われません。

 

この段階で、あのような誤った方法は排除され、ましな案が採られたでしょう。

 

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●しかし Rational Process

には、もう1段階、念押しがあります。 「マイナス影響の予測」です。

 

一見して良いと思える、で安心してはいけない。 潜在的リスクを調べる必要が

ある、と指摘します。  「ほんとに、その案で良いのかね?」というココロ。

即ち、 MUST はOK、 WANT も有利、という案ではあっても、

 

「 ・分析前の段階で、、、必要な何かを見落としていないか

  ・、、、どんな要素が、、受け入れ、、あるいは実施する妨げとなるか

  ・、、、どんな変化が、その案の長期にわたる成功を妨げるか

  ・、、、実施する場合、どんなことが問題を発生させやすいか」 (p.146)

 

など、「破壊的、否定的、悲観的に」検討するのです。

この部分だけ実行しても、あのJCO方式は採用されずに済んだでしょう。

 

 

技法なしでも、ココロがあれば、よく気づく人がいたら、、、とも言える程度

のことですが、それは個人の性能や努力に依存しすぎというものです。 むしろ

技法の活用を習慣化しておく方が、客観的、普遍的に安全度が高まります。

 

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●ハマー・チャンピーのBPR、

 

即ち「リエンジニアリング」は、いわば案を構築する技法です。 <切り捨て>

主体の日本的リストラで、あなたの周辺に、処理しきれない仕事が溢れているの

ではありませんか?  でもそれ、やり方が<今までの延長>のままだからでは?

 

「BPRの簡単な定義、、は<初めからやり直すこと>」  (本、p.55)

「正確には、、コスト、品質、サービス、スピードのような、、基準を劇的に

改善するために、、プロセスを根本的に考え直し、、デザインし直すこと」(57)

 

 

この際、BPR的に案を立ててみるのはいかが。 それには Rational Process

の「目標」がヒントになるでしょう。 さらに「マイナス影響」まで見ておけば、

後でシマッタ、が無くて済みます。

 

非常に慎重を要する場合は、すでにご紹介済みの「潜在的問題分析」。 あれは

「マイナス影響の予測」部分を拡大し、細密に行なうものだとも言えるでしょう。

 

*   *

 

ケプナーとトレゴーの Rational Process の一つの大きな特色は、それだけでも

十分役に立つが、他の技法と併せ用いればより大きな効果を生じさせ得る技法だ、

というところにあるのです。 

                              ■竹島元一■

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